■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は折りたたみスマートフォンとしてOPPOから初登場する「OPPO Find N」、満を持して日本に上陸する「Surface Duo 2」について話し合っていきます。
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OPPO初の折りたたみスマートフォン「OPPO Find N」が打ち出すGalaxyとの差別化ポイントとは
房野氏:OPPOから初の折りたたみスマートフォン「OPPO Find N」が発表されました。みなさんどのような印象をお持ちになりましたか?
「OPPO Find N」
房野氏
石川氏:正直、折りたたみスマートフォンだけでは今さら、という印象はありますよね。
石川氏
石野氏:ただし、先行研究はしっかりされています。ちょっと慎重すぎるというか、これまで試作品を何台も作ってきているという話なので、「試作だけかよ!」とも思いましたが、「Galaxy Z Fold 3 5G」に足りないところをしっかりとカバーしていますね。
例えばGalaxy Z Fold 3 5Gは閉じた状態で縦長なのはもちろん、開いた状態でも実は縦長になっているので、スマートフォンとしては中途半端な形になっているのに対し、OPPOは開くと横長になるように設計されています。あと、細かいところだけど、閉じた時に折り目の部分がGalaxy Z Fold 3 5Gは少し空洞ができるのに対して、OPPO Find Nは隙間なく閉じるようになっています。
ユーザーインターフェースとしては、OPPO Find Nでは真ん中でスッと手刀を下すみたいに線を引くだけで、画面分割ができるようになっていますね。
「Galaxy Z Fold 3 5G」
石野氏
石川氏:もちろん、こだわりは感じるけど、それ以外のプレゼンはほぼ、Galaxyと共通していました。ただ、価格には驚かされましたね。
房野氏:いくらで販売されるんですか?
石川氏:日本円に直すと14万円くらい。普通のハイエンドスマートフォンとあまり変わらない価格です。
石野氏:“1バルミューダフォン相当”の価格ですね(笑)
石川氏:Galaxyに比べると“後出しじゃんけん”ではあるので、当然、価格は下げてくるとは思いましたが、それにしても良く頑張った印象です。ただ、折りたたみができましたという発表ではあるものの、Galaxy以上の使い方の提案ができていない印象はありますね。
石野氏:ただ、横折タイプの折りたたみスマートフォンを出しているメーカーは意外と少なくて、ほかはXiaomiくらい。Xiaomiが参入した時は「スペックで上回ったぞ! どうだ!」って感じだったけど、OPPOは画面の比率とかをしっかり考えてきているのは面白いかなと思います。あと価格が安いのはやっぱりいいですね。
結局いくらフォルダブルが良いといっても、20万円を超えると多くの人が買うのをためらっちゃう。10万円台前半くらいに収まると、一気に流行るかもしれないですね。
Xiaomi「Mi Mix Fold」
法林氏:実機を触ったけど、OPPOとGalaxyでは明確に方向性の違いがありますよ。Galaxyは縦に細長い形なのに対して、OPPOは横長で扱いやすい。折りたたみ部分をぴったり重ねるために、若干分厚くなってしまっているけど、工夫は感じる。
あとGalaxyは防水だけどOPPOは防水じゃない。Galaxyがすごいというか、先にやっているアドバンテージはありますよね。
「OPPO Find N」
法林氏
石野氏:あとOPPOはタッチペンも対応していませんね。ここもGalaxyの凄さを感じる部分です。僕はGalaxy Z Fold 3 5Gを普段使っていますけど、防水に関してはにわかには信じられないというか、どうやって防水になっているのかがわからない(笑)
それくらいすごい技術ですし、他社は追随できていない部分なので、今後に期待したいです。
房野氏:閉じた状態でも外側にディスプレイが搭載されているんですよね?
法林氏:OLEDのディスプレイが搭載されています。Galaxy Z Fold 3 5Gは、閉じた時の画面が細長いし、旧機種では画面サイズも小さかった。“3”になってだいぶ大きくはなったけど、いずれにしても細長い。OPPO Find Nは横幅があるので、閉じた状態でも普通のスマートフォン程度のサイズ感で文字が見られます。
石川氏:Galaxy Z Fold 3 5GはQWERTYキーボードがとにかく打ちにくいですからね。
法林氏:そうだよね。だからOPPO Find Nはスマートフォンとしてのユーザビリティを良く考えているなと感じました。
房野氏:バッテリー容量はどれくらいですか?
法林氏:4500mAhです。もともと折りたたみスマートフォンは、両側にバッテリーを搭載できるので、スペース的には有利なんですよ。もちろん画面が2枚あるのに近い形なので、消費電力のコントロールはしないといけないけどね。
2画面スマートフォン「Surface Duo 2」はパソコンライクなAndroidスマートフォン!
石川氏:マイクロソフトの「Surface Duo 2」が日本でも発売されることが正式に発表されました。折りたたみというよりは、2画面のスマートフォンで、事前に借りてオンライン会議などに使ってみましたが、机に安定して置けるし、画面比率もプレゼン資料がちゃんと見えるようになっているので、仕事する上では良いツールだと思います。
「Surface Duo 2」
法林氏:“マイクロソフトらしい”アプローチは感じますね。見やすいし、生産性をよく考えられている。「マイクロソフトなのに、Android?」って思うかもしれませんが、「マイクロソフトはWindowsの会社」と考えるのはちょっと古いですね。Windowsだけでなく、OfficeやOneDriveなど、Microsoftアカウントで提供されるプラットフォームがあり、それとは別にGoogleがAndroidプラットフォームで提供する世界がある。Surface Duo 2はその両方がうまく共存している形。
あと、折りたたみスマートフォンが各メーカーから出始めてはいるけど、2枚のディスプレイを使ったほうが楽。無理してディスプレイを折り曲げなくてもいいんじゃないかという考え方はありかなと思います。
石川氏:2枚ディスプレイがあると、文字入力も楽ですし、電子書籍なども読みやすいですからね。
房野氏:繋げて1つの画面としても使えるのでしょうか。
法林氏:一応使えますが、真ん中に線が入ってしまうので、どちらかというと上手に2画面を使ってね……という形ですね。あと、細かい仕様だけど折りたたんだヒンジの外側部分に、時刻や一部の通知が表示されるようになっています。
房野氏:ちょっとパソコンライクな印象もありますね。
法林氏:そうだよね。ほかのスマートフォンにない特徴があったりもするので、面白いといえば面白い製品になっています。
房野氏:販売価格はいくらくらいになるのでしょうか。
法林氏:ストレージの違いで4つのモデルがあるんですが、もっとも安いモデルが18万4580円。米国向けが1499ドルだったので、まあ、妥当な線かな。FeliCaは搭載していません。
房野氏:チップセットはSnapdragon 888、OSはAndroidなんですよね。
法林氏:そうですね。だから普通にAndroidスマートフォンです。Windows 11とかは基本的に関係ありません。このあたりが「マイクロソフトはWindowsの会社」という解釈は古いという理由です。
あと、2画面スマートフォンはほかのメーカーでも作れるのか、例えば折りたたみiPhoneが出るのかという話でいうと、Surface Duo 2はディスプレイ自体を折り曲げているわけではないので、可能性はある。あとはOSの問題だと思います。
石川氏:OSの話でいうと、Androidももう少し頑張らないといけないとは思いますね。もう少し直感的に使えるようにならないといけない。
石野氏:一応、フォルダブル製品やタブレット向けの「Android 12L」というOSも発表されていますね。Android 12のサブシステムのような立ち位置で、もともとタブレット分野が弱いAndroidの課題に対して、フォルダブル製品が出始めたので、ついでに画面がでかいタブレットでも使えるよねという考え方。現状iPad OSの対抗策がないAndroidとしてはありだと思います。
「Android 12L」
石川氏:Androidがタブレットに弱い背景としては、グーグルの方針として、タブレット周りはChrome OSでやっていくという形でここ数年進んでいるからではあります。
石野氏:とはいえ、Chrome OSがタブレットに適しているかといわれると、そういう状況でもないんですよね。
房野氏:Surface Duo 2にはAndroid 12Lが搭載されるのでしょうか?
法林氏:まだわかりませんね。現状はAndroid 11です。Chrome OSはいろいろ触っているけど、アプリの扱い方なども含めて、なかなか明確な方向性を打ち出せず、右往左往してしまった印象がある。現状で、パソコンの代わりになることは難しいので、あくまで用途限定になると思います。
石野氏:まぁ少なくとも「iPhone 14(仮)」で折りたたみが出ることはない気がしますね。アップルがやるとすると、“Z Flip”とか“Motorola razr”みたいなタテ折りになるんじゃないかなと思います。
「Motorola Razr 5G」
法林氏:タテ折りは、開いた時に普通のスマートフォン程度のサイズになるので、これはありかなと思ってます。
房野氏:個人的には、今のスマートフォンをわざわざ折りたたむ必要がないかなとも思ってしまいます。
石川氏:そういう意味でいうと、アップルから折りたたみが出るとしても、iPadのほうかもしれません。
法林氏:確かに。2021年にコンパクトになったiPad mini(第6世代)が出て、片手で持てていいとは思ったけど、そこまで外出時に触るかといわれると微妙なんですよね。
スマートフォンを持って歩くサイズって限界があると思っていて、手の大きさとかも考えると、スマートフォンは「AQUOS sense」シリーズとか、「Xperia 10」シリーズ程度のサイズで、もう1台、動画やWebブラウザなどを“見る”用のデバイスとしてiPadのようなものがあるといい。あとは回線の問題だけど、今はテザリングが当たり前だし、使いたい時に使える、KDDIの「povo 2.0」のようなプランもあります。
「povo 2.0」
「Surface Duo 2」から見えるマイクロソフトとグーグルの関係性
房野氏:Surface Duo 2はどういった使用用途になるのでしょうか。
石野氏:小さいパソコンといったイメージになるかなと思います。
石川氏:ゴリゴリ仕事用に使えそうですよね。
法林氏:スマートフォンがなんのためのツールなのかを考えると、今はカメラやSNSのためという部分が重視されている。僕たち世代はPDA的な使い方が一般的で、スケジューラーとかメモとかが大事だけど、今このあたりはグーグルに丸投げしているメーカーが多い。
Surface Duo 2は、当然、GmailやOutlookが普通に使えるので、仕事用・プライベート用どちらのメールも1台で完結する。スマートフォンは情報を管理するツールだと考える向きには、すごくしっくりきます。併せて、フィーチャーフォンを一緒に持つ。そんな使い方をしてもよいでしょうね。あと、ディスプレイを折りたたんでいるわけではないので、全体を薄く設計できているのもポイントです。
石野氏:確かにSurface Duo 2は、“ぺったんこ”って感じですよね。Galaxy Z Fold 3 5Gを実際に使っていると、厚さや重みが弱点だなと感じますね。
法林氏:Surface Duo 2は閉じた状態で幅が92mmもあるので、「これじゃ、ワイシャツの胸ポケットに入らないかも」って家で話していたら、「今時、ワイシャツのポケットのサイズは、オーダーでどうにでもできる」と一蹴されてしまいました(笑)
房野氏:アプリゲームなども普通にできるんですよね?
法林氏:もちろんできますよ。性能は普通のAndroidスマートフォンだと思っていいです。メインはビジネスユースになると思いますが、とはいえ、法人向けというわけではない。マイクロソフトがいっている「個人の生産性を上げる」という考え方が、すごくしっくりきます。
石野氏:こうやってマイクロソフトがAndroidを使って自社のサービスを拡大する一方で、グーグルはAcerとHPのパソコンに、ファイルやアプリをスマホと共有する「ニアバイシェア」機能を搭載するとCESで発表しています。
「ニアバイシェア」
房野氏:アップルでいう「AirDrop」のような機能ですね。
石野氏:そうです。マイクロソフトとグーグルの関係性は面白くて、パソコンをもともとやっていて、モバイルの領域を攻めてくるマイクロソフトと、モバイルデバイスに強くて、パソコンに自社のソフトを入れていくグーグルという形になっています。
法林氏:全体像を見ていてすごく感じるのは、マイクロソフトとグーグルはお互いが良くわかっていて、敵対関係ではなく、実は補完し合っている。
石野氏:Windowsには「スマホ同期」といった機能もありますからね。
法林氏:そうなんです。なので、マイクロソフトとグーグルが覇権争いをしているとは思わないほうがよくて、それぞれが世の中を便利にするためには何が必要かをよく考えている。
石川氏:マイクロソフトもグーグルも、アップルに対する憧れのようなものがあると思います。アップルは、様々な製品がApple IDによって一気通貫に繋がっている世界を作っていますが、マイクロソフトとグーグルはここがまだできていない。グーグルが発表しているイヤホンとかを見ていても、アップル対抗の意識はすごく見えてきます。
グーグルに足りないのは、Chromebookこそあるけど、パソコンの分野はまだ弱いので、マイクロソフトと組んでやっている。マイクロソフトも、スマートフォンといったモバイルの部分が足りていないので、やるのであればAndroidでやるといった形ですね。
法林氏:これは主義主張の違いで、僕は石川君の考えとは逆です。アップルはすべてを自社製品で固める“閉じた世界”を作っているのに対して、マイクロソフトとグーグルは、オープンだからこそできる“開いた世界”を作っている。アップル製品で家中を固めるとなれば成立するかもしれないけど、そんなことはなかなかできないので、オープンな世界のほうがいいと思う。考え方の違いですが、アップルが正解かといわれると違うと思う。“アップルだからできる”という考え方は良くないと思っていて、例えばアップル製品は他社製品となかなかつながらない。石川君の意見もわかるけど、閉じた世界を作ってきたメーカーは、歴史的に見ても失敗していますしね。
……続く!
次回は、2021年のスマホを振り返り、会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘文/佐藤文彦