アップルが2022年3月に発表した各製品を振り返ると、他社にはない総合力が各製品をユニークで画期的なものにしていることがわかる。製品そのもののスペックやデザインといった一面的なものではなく、なぜそのような製品が作れるのかというところに、アップルの強さを感じた。
なかでもiPhone SE3とデスクトップMac用に開発されたM1 UltraというSoCに、アップルの強さが表れている。
SoCとソフトウェア、信号処理の組み合わせで価値創出するアップル
iPhone SE(第3世代)にはじまったことではないが、アップルは過去数年にわたって内蔵するシステムチップ(SoC)を自社で設計してきた。いや、この表現は微妙にニュアンスが異なるかもしれない。
アップルは製品に盛り込みたい機能、あるいは改善した機能や品質に対して、信号処理ソフトウェアとその信号処理をより深く高品位に実行するための回路をセットで開発してきた。筆者のコラムでも何度か、M1以降のMacを採用することで、iPhone向けに蓄積してきた信号処理技術(カメラの映像処理、マイクやスピーカーの音響処理、映像圧縮、再生など)がMacでも利用可能になることが、インテルからの切り替え時で極めて大きな意味を持つと書いてきた。
iPhone SEというグレードは、iPhoneの基本形をなすものだ。
今回、 iPhone SEを2年ぶりに刷新したのは、おそらく5Gモデムへの移行を進めたいという意図があったと推測するが、すでにiPhone 13向けに開発されている信号処理とSoCの機能をそのままスライドして組み込むことで、SEは外観をほとんど変えずに最新Phoneに近い画質のカメラを得た。
あまりアップルは喧伝していないが、当然ながら音声処理に関してもiPhone 13世代と共通のはずだ。なお外装部に関して言えばiPhone 13世代のガラスが用いられ、内蔵するバッテリをiPhone 13シリーズと同等のケミカル材料とすることで1日あたり2時間、バッテリ持続時間が伸びているという。
実機でのテストはしていないが、入手したサンプル画像を見る限り、第3世代iPhone SEのカメラ画質はiPhone 13の広角カメラに近い風合いを実現している。。ちなみにカメラユニットそのものは、第2世代から一切変わっていない。購入しやすい価格帯でありながら、最先端の iPhoneが持つ価値をそのままに近い形でスライドできるのは、自社でSoCを開発し、生産(そして採用機種の)計画を自社でコントロールできるからだ。