【45万円のEV】五菱製「宏光 MINI EV」
このブースは実車の展示のみで、メーカー説明員はコロナの影響で日本に入国できず不在。バッテリーは車両に積んだ状態で日本へ持ち込めないため取り外された状態となっていました。とはいえ、すみずみまで撮影できましたので、筆者の推察を含めたフォトレポートでお届けします。
エクステリアデザイン・ボディサイズ
正面から見たときは、軽トールワゴンの印象ですが、サイドを見ると全長が短く寸詰まりな印象を受けます。ボディサイズは、
全長:2,920mm全幅:1,493mm全高:1,621mmホイールベース:1,740mm
という数値で、軽自動車の規格(全長3,400mm以下、全幅1,480mm以下、全高2,000mm以下)と比較すると、全長は短いが全幅がわずかに規格を超えています。仮に、日本国内で登録できたとしても、登録車の扱いになるボディサイズです。
タイヤサイズは12インチ、145/70タイヤを装着、フロントブレーキはディスク、後輪はドラム式です。ホイールのエンブレムの天地を揃えずに展示されてしまうところは、中国っぽさを感じますね。
充電口はフロントグリル中央のエンブレム部分にあります。開閉は手動式。コネクタ形状はタイプ2のようで、ヨーロッパのメネケス社製のように見えるが、説明員がいないため詳細は不明。
バッテリー容量は、20kWh、航続距離200km(計測基準は不明)、充電所要時間は7時間と商品説明パネルに記載されていました。
ヘッドライトはLEDではなくハロゲンランプ、リアコンビネーションランプも形状からLEDではなくフィラメント電球が使用されているかと思われます。「WULING(ウーリン=五菱)」のブランド名が配されたパネル中央の丸いものは、リアゲートの電気式スイッチ。
インテリア・キャビン・ラゲッジスペース
全高約1.6mのおかげで、身長約180cmの筆者は前席後席ともに、頭が天井につくことなく座れました。ただ、前後の間隔は狭く、大人4人が長時間乗るには厳しいキャビン。ホイールベースが軽トールワゴンの平均より約70cmほど短い設計のため、乗車は1名ないしは2名を前提として考えらたのではないかと推察します。ちなみに、中国の車なので左ハンドルです。
シートの座り心地は、車両価格45万円ということを最も実感したところ。クッション材が薄く、ヘタリが早くきそうな印象でした。また、座面、背もたれともに面積が小さく、長時間の運転は厳しそう。コミューターEVと割り切って設計されたのでしょう。また、リクライニング調節レバーの動きが渋く、丈夫とは言えないつくりで、操作をしたとき壊れそうに感じました。
計器類はハンドルコラム上部の、12インチ程度の液晶ディスプレイに集約されています。なお、インフォテインメントシステムやカーナビなどのディスプレイはなく、オーディオも見当たりませんでした。装備されていたスイッチは、インパネセンターに、空調(エアコンは付いており、普遍的な調節機構であった)、ハンドルコラム左奥部に、ヘッドライトレベライザー(手動)、タイヤ空気圧リセットボタンと思われるスイッチ(おそらく、タイヤ空気圧アラート機能を備え、メーターパネルに警告表示が出ると推察される)、フォグランプ、リセットボタン(何のリセットかは不明)ハンドルコラム右側奥に「E/S」と書かれたボタン(ドライブモード切り替えか?)を備えていました。インパネ中央下部には、ネット式の収納を備えています。
ドアトリムなど全体的に使用されている素材は、樹脂。「ザ・プラスチック」のコスト優先ではありますが、2トーンカラーの配色にオレンジの差し色を入れたり、ペダルに「+」と「ー」のかわいいデザインの記号を配するなど、ちょっとしたおしゃれ感を演出しています。パワーウィンドウスイッチは、申し訳程度のセンターコンソールに配置。シフト操作はダイヤル式です。電源スイッチは、昔ながらのキーを差し込んで回す方式のようです。
全長3m弱でラゲッジスペースの広さを期待するのはナンセンスですが、後席は2分割で背もたれを前に倒すことができ、荷物を置けるスペースをつくることができます。後席背もたれを起こした状態では、荷物は詰めません。また、後席は前後スライド機能がありませんでした。
パワートレイン・足回り・バッテリー
短いボンネットの下には、充電コネクタを受けるインバーターがセンターに(充電口はフロントグリル中央にあるため。画像は右側2枚)、ブレーキサーボとブレーキフルードタンク(画像左下)、ウォッシャータンクなどがありました。おそらく下側にエアコンのコンプレッサーがありそうです。
フロントサスペンションは、ストラット式。スタビライザーは付いていないようです。足回りを覗くと、泥水をはね上げたままの状態であったため、現地で走行されている個体が今回の展示品として日本に持ち込まれたようです。ここも中国らしさを感じたところでした。
リアはデフにモーターを直結。懐かしさを感じるFRのそれと同じものを流用のようです。リアサスペンションは、3リンク式リジッドアクスル。
モーターとインバーターの奥、車両中央部底面には本来バッテリーが配置されるが、展示車でも日本国内に入る前にバッテリーは取り外す必要があったとのこと(イベント主催者の話による)。
「45万円」という価格について
メーカーの五菱は「実値:45万円相当」と伝えていますが、この価格は中国現地販売価格を、邦貨換算しただけの金額と思われ「日本での販売はない」と明記されていました。
「宏光 MINI EV」を日本で輸入販売しようとすると、さまざまなハードルがあります。日本国内の基準に適合するかどうかの試験に通過するための確認のほか、場合によっては、車両に突起物や灯火類など日本保安基準を満たすための部品を新たに製作する必要も出てきます。
また、中国は「58協定」と呼ばれる、1958年に締結された(日本の加盟は1998年)国連欧州経済委員会(ECE)の多国間協定「車両等の型式認定相互承認協定」に加盟しておらず、多くの試験に合格しなければ、通関できません。(協定加盟国は、製造メーカーが作成する技術適合証明書などのドキュメントのみで試験が免除となることが通例)
最近では、中国の高級車「紅旗 H9」が、試験をパスしてナンバーを取得したことが話題になりました。
もし、日本で「宏光 MINI EV」を販売しようとするなら、五菱の正規代理店に名乗りをあげる会社が、ナンバー取得のための確認や調整、必要に応じて部品製造、交換などのもろもろの費用を投資する必要があります。
その費用のうち、最も大きいもののひとつは、充電関係システムとその部品となるでしょう。普通充電のみなら、比較的コストはかからないかと思われますが、急速充電(CHAdeMO規格)への対応は、かなりのコストがかかります。
さらに、日本国内でのメンテナンス等のサービス体制を整えるコストも発生します。
以上のほかにも、必要なコストはありそうですが、日本国内販売時の車両価格は、国内導入のための投資金額を回収する分が、45万円の車両価格に上乗せされることがほぼ確実でしょう。
今までに中国のEVを日本国内導入した類似ケースがないため、車両価格がいくらになるのかの予想は難しいですが、100万円を切る価格設定は厳しく、安くても150万円程度になるのではないか、と推測しています。(あまり参考にはならないかもですが、北米や欧州など協定加盟国からの並行輸入車は、現地価格のプラス100〜200万円ほどとなっています)
>>> 解体モデル3展示レポートに続く。
(取材・文/宇野 智)