20年以上の歴史がある住友ゴム工業のコンピュータシミュレーション開発
──住友ゴム工業のコンピュータシミュレーションを用いたタイヤ開発はいつごろから始めたのですか?中瀬古氏:当社のコンピュータシミュレーションを用いたタイヤ開発には20年の歴史があります。スーパーコンピュータを導入したのが1992年です。それまでもFEM(有限要素法)を用いたタイヤの解析は行っており、構造物の破壊や歪みの大きさを測るなどはしていました。
タイヤを構成する主な部材。住友ゴム工業ではこれらをすべてシミュレーションしている
──最初にコンピュータシミュレーションを用いて作られたタイヤ製品は何ですか?中瀬古氏:最初に製品化したのは、1997年の秋に1998年向け製品として投入した「LE MANS(ル・マン) LM701」です。このLM701は、コンピュータシミュレーション、つまりDRS(デジタル・ローリング・シミュレーション)を用いたデジタイヤの第1世代になります。
住友ゴム工業のタイヤシミュレーションの歴史<1990年代初めにスーパーコンピュータを社内に導入しましたが、ご存じのように当時のスパコンのレベルは、現在のパソコンの計算能力にも遠く及びません。そのため、最初は簡単な計算だけをやっていました。DRS製品として発表できたのが1997年になったのは、製品開発のために必要な計算に時間がかかったということです。
DRSの概要──デジタイヤの第2世代であるDRS IIでは、タイヤ単体シミュレーションであるDRSから何が変わったのでしょう?中瀬古氏:2000年代の初めにDRSの第2世代になりました。このDRS IIでは、これまで評価が非常にしづらかったもの、たとえば雨天走行時のシミュレーションなどが可能になりました。
DRS IIの概要
<3種類、4種類タイヤを作った場合、「あ、これよかったね。これはどうだったね」となって、それなりのノウハウも残っていきますが、本当のタイヤのメカニズムは分からないまま製品開発が進んでしまいます。
──デジタイヤは、DRS IIからDRS IIIへと進化しました。このDRS IIIは何が進化点になるのでしょうか?中瀬古氏:タイヤと路面のシミュレーションの後に、今度は音のシミュレーション、つまり空気のシミュレーションをするようになったのがDRS IIIです。
──DRS IIIで住友ゴム工業のタイヤシミュレーションは1つの完成を見たのでしょうか。その後、住友ゴム工業のシミュレーションは、素材、つまりミクロレベルのシミュレーションを進めているように見えます。中瀬古氏:素材のシミュレーションをするようになった理由の1つは低燃費タイヤの開発にあります。低燃費というのはエネルギーロスを減らすことなのです。その際には、ゴム(コンパウンド)だけではなく、トレッドパターンも結構効くのです。そのポイントは、うまくエネルギーを分散させ、1個所にタイヤの歪みが集中しないようにすること。そのため最近のタイヤでは、直線を主体としたパターンのタイヤが多くなり、優雅な曲線美を持つタイヤは減りました。
すべての要素を満たすタイヤ開発を目指すタイヤ用ゴムの構造シリカとポリマーの動きをシミュレーション
MDを用いたシミュレーション
京を用いたMDシミュレーション
分子シミュレーションモデル。実際のシリカの状態をできるだけ正確に再現している(球全体すべてがシリカ)
住友ゴム工業は京の産業利用枠を使って、新たな解析に取り組んでいく